コードが書けなくてもSaaSで月600万円――Rashid Khasanovに学ぶ「退屈な問題」のビジネス化
本記事は海外の事例を元に、ビジネス構造の分解・日本市場への応用分析・AI活用提案などを独自に加えたオリジナルコンテンツです。
コードが書けなくてもSaaSで月600万円――Rashid Khasanovに学ぶ「退屈な問題」のビジネス化
「コードは書けません。でも月600万円以上、SaaSで稼いでいます」
そう話すのは、Rashid Khasanovさん。自分では一行もコードを書かないノンテクニカルファウンダーでありながら、4つのSaaSプロダクトを運営し、合計で月間42,000ドル(約600万円)以上の収益を上げている人物です。
派手なAIツールでもなければ、有名なスタートアップ出身でもない。Rashidさんが選んだのは、誰もが「面倒くさい」と思っている退屈な問題でした。
なぜ彼がそれだけでこれだけの収益を築けたのか。今回の記事では、Rashidさんのポートフォリオ戦略の裏側を解体しながら、日本のビジネスパーソンがどう応用できるかを考えていきます。
彼に何が起きたのか
Rashidさんの起業ストーリーは、最初は順風満帆ではありませんでした。
最初に手掛けたのはロボアドバイザーのモバイルアプリ。自分のお金と時間を注ぎ込みましたが、市場に受け入れられず、貯金は底をつき、借金まで抱えることになりました。
ここで諦めてもおかしくないところですが、Rashidさんは別の角度から起業の可能性を探り始めます。自分がコードを書けないなら、書ける人と組めばいい。しかも、アメリカでローカルの開発者を雇うのはコストが高すぎる。海外のリモート開発者を活用すれば、ずっと安くプロダクトを作れる。
この発想の転換が、その後のポートフォリオ戦略につながっていきます。
4つのSaaS、合計月42,000ドルの内訳
Rashidさんが現在運営しているのは、以下の4つのプロダクトです。
Angel Match(エンジェルマッチ)
月間約37,300ドル。ポートフォリオの主力です。エンジェル投資家やベンチャーキャピタルのデータベースで、11万件以上の投資家データを1箇所に集約しています。スタートアップ創業者が資金調達先を探す手助けをするサービスです。
Investor Hunt(インベスターハント)
月間約4,557ドル。Angel Matchに近い投資家検索サービスですが、異なる切り口で展開しています。
Pur Social(パーソーシャル)
月間約491ドル。複数のSNSアカウントへの投稿を一元管理できるスケジューリングツールです。
Journalist Hunt(ジャーナリストハント)
月間約180ドル。20万人のジャーナリストのデータベース。スタートアップが自社のストーリーに合った記者を見つけ、直接コンタクトできるようにするサービスです。
合計で月間約42,500ドル。日本円にすると約600万円です。
正直に言うと、ポートフォリオの約88%をAngel Match 1つが占めています。残りの3つはまだ小さな収益です。Rashidさん自身もこの依存度は認識していて、隠さずオープンにしています。この透明性自体が、彼の信頼性を高めているんですよね。
ちなみにAngel Matchは一時月41,000ドルまで伸びた後、37,300ドルに減っています。Meta広告を停止した影響ですが、広告に依存しすぎない健全な判断だとわたしは思います。
「キラキラしたアイデア」を追うな。退屈な問題を追え
Rashidさんの哲学で最も印象的なのが、この言葉です。
「キラキラして聞こえるアイデアを追うな。誰もクールな_stuff_には興味がない。痛みを伴う問題を追え。スプレッドシートや手作業で解決しようとしている問題を見つけたら、もう80%到達している」
どういうことか、具体例で見てみましょう。
投資家を探す場合、本来どうやっているでしょうか。LinkedInを何百人も調べ、Crunchbaseで検索し、メールアドレスを探す。気が遠くなる作業です。多くの起業家は、これをスプレッドシートで管理しています。
Rashidさんがやったのは、そのスプレッドシート作業をデータベース化したこと。検索するだけで投資家が見つかるようにする。たったそれだけです。
でも、たったそれだけで、ユーザーは時間を取り戻せます。これが「退屈な問題」をビジネスにする構造です。
3つのプロダクトに共通しているのは、どれも地味だけど、やらなきゃいけない問題だということ。
資金調達ができないと会社が潰れる。PRができないと認知されない。SNSの更新を忘れると顧客との接点がなくなる。どれもビジネスにとって致命的なのに、誰も「楽しい」とは思わない作業。
そこにこそ、チャンスがある。Rashidさんはそう教えてくれています。
なぜ「データベースSaaS」はAIラッパーより強いのか
ここが今回の記事で一番伝えたいポイントです。
最近、AIラッパー(OpenAIなどのAPIを表面だけ包装したサービス)が次々と登場していますが、同時に次々と消えてもいます。OpenAIが新機能を発表しただけで、丸ごとサービスが不要になってしまう。そんな光景を何度目にしたでしょうか。
Rashidさんはこう語っています。
「データベースプロダクトを作るのは簡単じゃない。でも一度軌道に乗せれば、モート(競争の堀)ができる。AIラッパーはLLM大手の新機能ひとつで殺される。でも、キュレーションされたデータベースは殺しにくい」
データベース型SaaSが強い理由はいくつかあります。
第一に、データをキュレーションするには時間がかかります。一朝一夕でコピーできるものではありません。11万件の投資家データを整備するのには、膨大な労力が必要です。
第二に、データ量が増えるほどサービスの価値が上がります。これはネットワーク効果に似た構造です。
第三に、プログラマティックSEOとの相性が抜群にいいのです。データベースの中身一つひとつにページを作れるので、「[業界]向け投資家」「[地域]のエンジェル投資家」といった検索ページを大量に生成できます。これが検索流入の強力な源になります。
AI時代において「殺されにくいビジネス」を考えるなら、データベース型SaaSは有力な選択肢のひとつです。
お金をかけずに集客する3つの方法
Rashidさんが成長に成功した背景には、SEOを中心とした着実な集客戦略があります。
1. プログラマティックSEO
データベース型SaaSにとって最強の成長ハックだとRashidさんは言います。Angel Matchは長い間月5,000ドルで停滞していました。原因は、サイトを更新するたびに誤ってページを削除してしまうというSEOの基本ミスでした。SEO専門家を雇ってから、ようやく軌道に乗ったそうです。
Journalist HuntはプログラマティックSEOによって、1日あたり最大100クリックのオーガニックトラフィックを獲得しています。広告費ゼロで、購買意欲の高いユーザーを集められる。これがデータベース型の特徴です。
2. 無料ツール戦略
メインの有料プロダクトの周辺に、小さな無料ツールを多数作っています。それぞれをProduct HuntやReddit、Indie Hackersでローンチし、バックリンクやリファラルトラフィックを獲得。有料ユーザーへのコンバージョンにつなげています。
昔は無料ツールを作るのも大変でしたが、LLMの時代になった今、AIを使えば個人でも短時間でツールを作成できます。Rashidさん自身、「すべての無料ツールが成功したわけではない」と語っていますが、数を出す戦略です。
3. Meta広告(補助的に)
ROAS 1.6倍と「あまり良くない」数字だったため、2025年9月に一時停止して採算性を評価。運用者を変更して再開する予定です。広告に過度に依存しない姿勢は、ソロプレナーにとって見習うべき点です。
AIを「改善ループ」に使う賢い方法
Rashidさんの面白い取り組みのひとつに、ChatGPTを使った解約理由の分析があります。
ユーザーが解約する際に理由を収集し、それをChatGPTに入力して「最も多い解約理由」を分析。そのフィードバックをオンボーディングの改善やフォローアップメールに反映させています。
これは特別なツールも予算も必要ありません。既に持っているデータと、誰でも使えるChatGPTで始められる。AI時代ならではの、すぐに真似できる改善ループだと思います。
日本で再現するには
Rashidさんのモデルは、日本でも十分に応用可能です。
日本のスタートアップエコシステムは拡大しており、資金調達やPR、SNS運用の悩みは言語や文化を問わず普遍的です。そして何より、日本語の投資家情報や記者情報のデータベースは、意外と整備されていないのが現状です。
日本語版Angel Matchの構想
日本のエンジェル投資家・VC・事業会社CVCのデータを日本語で整理するサービス。日本の投資家情報はnoteやWantedly、LinkedIn Japanなどに散らばっていて、探すのが大変です。月額2,980円〜5,980円程度の価格帯で、国内VCの詳細な投資傾向データや補助金・助成金情報との統合を差別化ポイントにできます。
日本語版Journalist Huntの構想
日本のテクノロジー・ビジネスメディアの記者情報をデータベース化。NewsPicksやForbes Japan、BRUDGE、CNBC Japanなどの記者が「得意とする領域」でタグ付けされていて、X(Twitter)アカウントとも連携している。PR予算のないスタートアップやソロプレナーにとって、心強いツールになるはずです。
ソロプレナーが再現する具体的なステップ
Rashidさんのモデルを日本で再現する場合、以下のようなステップが考えられます。
まずはニッチなデータベースの選定から。「スプレッドシートで管理されているけど、まだデータベース化されていない情報」を探すのがコツです。自分がスプレッドシートで管理している情報が、最初のターゲットになるかもしれません。日本のインフルエンサーDB、店舗データ、フリーランス案件DB、補助金DBなど、候補はたくさんあります。
次にMVPの構築。UpworkやFiverrで海外の安価な開発者を見つけ、最低限のプロトタイプを作ります。検索機能、データ表示、Stripe決済があれば十分。Rashidさんと同じくNode.jsとDigital Ocean、Stripeの組み合わせがオススメです。初期開発コストは50万円〜150万円程度を見ておくといいでしょう。
そしてプログラマティックSEOの仕込み。1ページに1データ項目の構造化ページを自動生成します。「[業種]の[地域]の投資家」といったパターンで、大量のページを作成していきましょう。
2ヶ月目には無料ツールでトラフィックを集めます。データベースの周辺にある「無料で使える便利ツール」をAIで生成し、Product HuntやX、noteでローンチ。数を出して当たりのツールを見つけます。
3ヶ月目からは解約分析ループを回します。解約理由を収集してChatGPTで分析し、改善を繰り返す。ユーザーサポートは最初自分でやりましょう。Rashidさんの教えです。
収益の目安としては、月額3,980円のサービスで有料会員30人なら約12万円、200人で約80万円、500人で約200万円。ランニングコストはDigital OceanとStripe、Klaviyoで月1万円〜3万円程度です。
覚えておきたいこと
Rashid Khasanovさんの成功から学べる最大の教訓は、ひとつです。
「退屈な問題を追え。シャイニーなアイデアを追うな」
AIバブルの喧騒の中で、ついつい最新のAIツールや派手なアイデアに目が行きがちなわたしたち。でも本当に持続可能なビジネスは、地味で痛みを伴う問題の先にあります。
コードが書けなくても、資金が少なくても、退屈な問題をデータベース化するだけで、月600万円のビジネスが作れる。Rashidさんはそう証明してくれました。
あなたのスプレッドシートには、何が入っていますか?
もしかしたら、それが次のビジネスの種かもしれません。
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📝 参考・調査に使用した情報源:
- Indie Hackers「After Burning Through His Savings and Going Into Debt, This Founder Built a $42K MRR Portfolio」(James Fleischmann, 2025-10-31): https://web.archive.org/web/20260502011019/https://www.indiehackers.com/post/tech/after-burning-through-his-savings-and-going-into-debt-this-founder-built-a-42k-mrr-portfolio-FGEm1BtZPZV9lqW4QptN
- Angel Match 公式サイト: https://angelmatch.io
- Investor Hunt 公式サイト: https://investorhunt.com
- Journalist Hunt 公式サイト: https://journalisthunt.com
- Pur Social 公式サイト: https://pur.social
- Product Hunt(Angel Match / Journalist Hunt ローンチ実績)